職場のすれ違いをなくす:期待値の不一致を防ぎ解消するコミュニケーション方法
職場の「すれ違い」はなぜ起こるのか:期待値の不一致が招くコンフリクト
日々の業務において、同僚、上司、部下、あるいは他部署との間で「なぜか話がかみ合わない」「思っていたのと違う結果になった」といった経験は少なくないのではないでしょうか。懸命にコミュニケーションを取っているつもりでも、プロジェクトの進行に遅れが生じたり、手戻りが発生したり、場合によっては人間関係に軋轢が生じることもあります。
こうした職場で起こる多くの「すれ違い」やコンフリクトの根源には、「期待値の不一致」が存在することがあります。これは、関係者間で業務の内容、成果物のイメージ、期限、役割分担などに対する認識や期待にズレがある状態を指します。このズレが解消されないまま業務が進むと、最終的に大きな問題として顕在化し、対立や非難に発展してしまう可能性があります。
しかし、この期待値の不一致は、適切なコミュニケーションによって予防したり、発生した場合でも早期に解消したりすることが可能です。この記事では、期待値の不一致がなぜ起こるのかを掘り下げ、そして職場のすれ違いを減らし、建設的な関係を築くための具体的なコミュニケーション方法と、実践的なフレーズをご紹介します。
期待値の不一致が発生する原因
期待値の不一致は、意図的なものではなく、無意識のうちに発生することがほとんどです。主な原因としては、以下のような点が考えられます。
前提条件の違い
人はそれぞれ異なる経験や知識を持っています。そのため、ある事柄について話す際に、暗黙のうちに置いている前提が異なっていることがあります。例えば、「急ぎで対応してほしい」と言われた時に、「急ぎ」が何を意味するのか(今日中なのか、明日午前中なのか、来週頭なのか)の前提が共有されていないと、期待するスピードにズレが生じます。
情報の非対称性
全ての関係者が同じ情報レベルを持っていない場合、期待値にズレが生じやすくなります。プロジェクト全体の目的や背景、関連部署の状況など、ある人だけが知っている情報が共有されていないために、タスクの優先順位や重要性に対する認識が変わってしまうことがあります。
言語化の不足・曖昧さ
指示や依頼、報告をする際に、具体的かつ明確な言葉で伝えないと、受け手は自身の解釈で補うことになります。この解釈が、送り手の意図や期待と異なると、成果物のイメージやプロセスにズレが生じます。「いい感じに仕上げて」「なるはやで頼む」といった曖昧な表現は、期待値の不一致を招く典型例です。
確認と合意形成の不足
コミュニケーションの最後に、お互いの理解が一致しているかを確認し、共通の合意を形成するプロセスが抜けてしまうと、認識のズレが見過ごされてしまいます。「分かったつもり」「伝わっただろう」という推測で終えてしまうことが、後々の問題につながります。
期待値の不一致を防ぐためのコミュニケーション方法
期待値の不一致を完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、日頃のコミュニケーションを工夫することで、その発生確率を大幅に下げることができます。
1. 目的・目標を必ず共有する
タスクやプロジェクトを始める前に、「なぜこれを行うのか」「達成することで何を目指すのか」といった上位の目的や目標を関係者間で共有します。これにより、個々のタスクが持つ意味合いや重要性に対する共通認識を持つことができ、進め方や判断基準のズレを防ぐことにつながります。
- フレーズ例:
- 「今回の〇〇プロジェクトですが、最終的には△△を達成することを目標としています。そのためにも、このタスクで□□を実現したいと考えています。」
- 「この依頼の背景には、お客様からの××という要望があります。最終的なゴールイメージは◎◎となります。」
2. 具体的な言葉で明確に伝える
依頼や指示をする際は、可能な限り具体的で測定可能な言葉を使用します。特に、以下の要素を明確に伝えることを意識します。
- タスクの内容: 具体的に何をやるのか、何を求められているのか
- 役割分担: 誰が何を担当するのか
- 期限: いつまでに完了させる必要があるのか
- 成果物のイメージ: どのような形式で、どのような質・量の成果物を期待するのか
-
判断基準: どのような状態になれば完了とみなせるのか
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フレーズ例:
- 「この資料作成をお願いします。内容は〇〇に関するデータ分析結果で、ターゲットは△△部署の意思決定者です。来週水曜日の午前中までに、PPT形式で10枚程度にまとめていただけますでしょうか。特に、××のデータに基づいた考察を重点的に含めていただきたいと考えています。」
- 「このタスクの完了は、〇〇システムに△△の機能が実装され、それが□□のテストケースを全てパスした状態を指します。期日は月末となります。」
3. 相互の理解を確認し、合意を形成する
指示や説明が終わった後に、相手がどのように理解したかを確認する時間を持つことが重要です。「伝えたつもり」ではなく、「伝わったこと」を確認します。
- フレーズ例:
- 「ここまでの内容について、〇〇さんの方で何かご不明な点はありますでしょうか。」
- 「私が今お伝えした内容について、〇〇さんの言葉で理解した範囲を簡単に確認させていただいてもよろしいでしょうか。例えば、今回のタスクで一番重要だとお考えになる点はどこでしょうか。」
- 「それでは、今回の件については〇〇を△△までに□□の形式で進める、ということで認識合っていますでしょうか。」
4. コミュニケーションの記録を残す
重要な決定事項や合意内容は、議事録、メール、チャットなどで記録に残します。後から見返せるようにしておくことで、記憶違いや「言った言わない」を防ぎ、期待値の拠り所となります。
発生した期待値の不一致を解消するための対話テクニック
どんなに注意していても、期待値の不一致が発生してしまうことはあります。重要なのは、それに気づいたときにどのように対応するかです。感情的にならず、建設的に解決を目指すための対話テクニックをご紹介します。
1. 状況を冷静に確認する
「違う」「おかしい」と感じたときに、感情的に反応するのではなく、まずは何がどのように期待と異なるのかを冷静に把握することに努めます。事実に基づき、具体的にどのような状況なのかを整理します。
2. 相手の認識や期待を傾聴する
相手もまた、自身の認識に基づき行動しています。なぜそのような結果になったのか、相手はどのように状況を理解しているのかを、批判せずにまずは正確に聞き取ります。相手の話を遮らず、共感的な姿勢で耳を傾けることが、相手が安心して話す上で非常に重要です。
- フレーズ例:
- 「今回の件について、〇〇さんの視点から、どのような状況で、どのようなプロセスで進められたのか教えていただけますでしょうか。」
- 「この結果について、〇〇さんはどのように評価されていますか。また、元々どのような状態を目指していましたか。」
3. 事実と解釈・感情を分けて伝える
自身の期待と異なった点を伝える際には、「起きたこと(事実)」と、「それに対する自分の解釈や感情」を切り分けて伝えます。これにより、相手は一方的に非難されていると感じにくくなります。
- フレーズ例:
- 「〇月〇日に納品いただいた資料についてですが(事実)、当初お願いしていた仕様と一部異なっている点があるように見受けられました(事実に基づいた客観的な状況説明)。私は〇〇という仕様で進めていただけるものと理解しておりました(自身の解釈)。この点について、どのような状況だったか教えていただけますでしょうか。」
- 「期日までに報告がなかったため(事実)、少し不安に感じました(自身の感情)。何か状況に変化はありましたか。」
4. 共通理解を再構築し、代替案や解決策を話し合う
互いの認識のズレを確認し、原因が明らかになったら、今後の進め方について共通の理解を再構築します。必要に応じて、代替案や修正案を提示し、実行可能な解決策を共に見つけ出します。大切なのは、一方的な指示ではなく、共に解決策を考える姿勢です。
- フレーズ例:
- 「これまでの話で、お互いの認識に〇〇のようなズレがあったことが分かりました。今後はこの点を踏まえ、△△のように進めてはいかがでしょうか。」
- 「現状を踏まえると、当初の計画通りに進めるのは難しいかもしれません。代替案として、〇〇のような方法は考えられますでしょうか。もし難しければ、他にどのような方法が考えられますか。」
- 「では、今後の進め方として、まずは〇〇を優先し、△△については□□までに改めて相談する、ということで合意できますでしょうか。」
- 「今回の件を踏まえ、次回以降、同様の認識のズレを防ぐために、〇〇のようなルールを設けてみてはいかがでしょうか。」
まとめ:期待値のコミュニケーションは日々の積み重ね
職場のすれ違いやコンフリクトの多くは、期待値の不一致に起因します。これを防ぎ、解消するためには、特別な能力というよりも、日々のコミュニケーションにおいて「明確に伝える」「しっかりと確認する」「相手の認識を理解する」といった基本的なスキルを意識的に実践することが重要です。
期待値のすり合わせは一度行えば終わりではなく、状況の変化に応じて継続的に行う必要があります。今回ご紹介した具体的なコミュニケーション方法やフレーズが、皆さんの職場で建設的な対話を行い、より円滑な連携を実現するための一助となれば幸いです。少しずつでも実践に取り入れることで、職場の人間関係や業務効率が改善され、より快適に働くことにつながるでしょう。